第7章 死者たちの晩餐会
4人はダンス・フロアの端をゆっくりと歩き始めた。
ふわふわと宙に漂う亡霊たちの間を縫うように、慎重に進む。
陰気な修道女の一団がすれ違いざまに何やら祈りのような低い声を唱えていたし、ぼろぼろの服に鎖を巻きつけた男が、片隅で静かに壁を見つめていた。
ハッフルパフのゴースト「太った修道士」は、額に矢を突き刺した騎士と楽しげに話し込んでいる。
その光景の中に、一際異質な気配があった。
スリザリンのゴースト、「血みどろ男爵」
全身が銀色の血に濡れたような姿で、痩せこけた顔には陰気な怒りが宿っている。
彼の周囲だけ、まるで音までが凍りついたように静まり返っていて、他のゴーストたちは誰も近づこうとしない。
チユも思わず息をひそめて、その視線を避けた。
(あの人には、絶対に話しかけないようにしよう……)
すると突然、ハーマイオニーがぴたりと立ち止まり、くるりと向きを変えた。
「あーっ、いやだわ。戻って、戻って!」
小声なのに、どこか切羽詰まった調子だった。
「え?誰かいたの?」
ハリーが戸惑いながら、早足で引き返してくる。
「“嘆きのマートル”よ。3階の女子トイレに取り憑いてる子」
ハーマイオニーが声をひそめて説明した。
「トイレに取り憑いてる?」ロンが眉を顰める。
「去年はあの子のかんしゃくのせいで、ずっと壊れてたのよ。泣いたり怒鳴ったり、もう大変だったんだから。直ってても、行く気になんてならないわよ。あのトイレだけは」
チユは小さく息をのんだ。
まだ会ったことはないけれど、トイレに取り憑いてる幽霊、という言葉の響きだけで充分だった。
想像しただけで、寒気がする。