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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第7章 死者たちの晩餐会



通路を曲がり、階段を下りていくごとに、足元の空気がひんやりと重くなっていく。
地下牢に近づくにつれ、まるで時間がゆっくりと流れ始めるように、静けさが辺りを包んでいた。

その時、遠くから、何かを引っかくような甲高い音が聞こえてきた。


「…あれが音楽のつもり?」
ロンが顔をしかめながら、小声で言う。


それはまるで、壁の奥から誰かが呼びかけてくるような音だった。
不気味にうねる旋律が、冷たい石壁を伝ってこちらに迫ってくる。
チユは思わず、無意識にマントの裾をぎゅっと握った。


「……がいこつ舞踏団よりも素敵かも?」


ぽつりと呟いた自分の声が、ひんやりとした空気の中でやけに大きく聞こえた。

すると、その先――ビロードの黒幕を垂らした戸口の向こうに、ほとんど首無しニックが立っていた。


「親愛なる友よ……」どこか憂いを帯びた声で、彼はゆっくりと語りかけてくる。
「これは、これは……このたびは、よくぞおいでくださいました……」


羽飾りのついた帽子をサッと脱ぐと、彼は4人を、深々とおじぎして中へと招き入れた。

チユは、冷たい石の床をそろそろと踏みしめながら、ニックの後に続いた。
目の前に広がった光景に、チユは思わず息を飲んだ。


地下牢の中は、ぎっしりと半透明の亡霊たちで埋め尽くされていた。
そのほとんどが、空中をふわふわと漂いながら、ゆっくりと回転し、滑らかに舞い、ダンスフロアを優雅に行き交っている。


「わ……」


その場の冷気に震えたのか、それとも驚きの声が漏れたのか、自分でもわからなかった。
チユの吐く息が、白く、ふわりと鼻先に立ち上がる。


壇上には、黒幕で飾られた演奏台があり、そこではぞわぞわと身の毛もよだつ音を奏でていた。
曲なのか悲鳴なのか判別のつかない震える旋律が、天井のシャンデリアへと昇っていく。

そのシャンデリアさえ、異様だった。
無数の黒いろうそくが、群青色の炎をまとって燃えており、まるで冷たい青い星々が逆さにぶら下がっているかのようだった。


「見て回ろうか?」
ハリーが言った。寒さで少し肩をすぼめている。

「誰かの体を通り抜けないように気をつけろよ」
ロンが冗談まじりに言いながらも、目線は足元を警戒していた。


チユは、少しだけ笑った。
けれど、その笑みもすぐに凍るような空気の中へ、静かに吸い込まれていった。
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