第7章 死者たちの晩餐会
通路を曲がり、階段を下りていくごとに、足元の空気がひんやりと重くなっていく。
地下牢に近づくにつれ、まるで時間がゆっくりと流れ始めるように、静けさが辺りを包んでいた。
その時、遠くから、何かを引っかくような甲高い音が聞こえてきた。
「…あれが音楽のつもり?」
ロンが顔をしかめながら、小声で言う。
それはまるで、壁の奥から誰かが呼びかけてくるような音だった。
不気味にうねる旋律が、冷たい石壁を伝ってこちらに迫ってくる。
チユは思わず、無意識にマントの裾をぎゅっと握った。
「……がいこつ舞踏団よりも素敵かも?」
ぽつりと呟いた自分の声が、ひんやりとした空気の中でやけに大きく聞こえた。
すると、その先――ビロードの黒幕を垂らした戸口の向こうに、ほとんど首無しニックが立っていた。
「親愛なる友よ……」どこか憂いを帯びた声で、彼はゆっくりと語りかけてくる。
「これは、これは……このたびは、よくぞおいでくださいました……」
羽飾りのついた帽子をサッと脱ぐと、彼は4人を、深々とおじぎして中へと招き入れた。
チユは、冷たい石の床をそろそろと踏みしめながら、ニックの後に続いた。
目の前に広がった光景に、チユは思わず息を飲んだ。
地下牢の中は、ぎっしりと半透明の亡霊たちで埋め尽くされていた。
そのほとんどが、空中をふわふわと漂いながら、ゆっくりと回転し、滑らかに舞い、ダンスフロアを優雅に行き交っている。
「わ……」
その場の冷気に震えたのか、それとも驚きの声が漏れたのか、自分でもわからなかった。
チユの吐く息が、白く、ふわりと鼻先に立ち上がる。
壇上には、黒幕で飾られた演奏台があり、そこではぞわぞわと身の毛もよだつ音を奏でていた。
曲なのか悲鳴なのか判別のつかない震える旋律が、天井のシャンデリアへと昇っていく。
そのシャンデリアさえ、異様だった。
無数の黒いろうそくが、群青色の炎をまとって燃えており、まるで冷たい青い星々が逆さにぶら下がっているかのようだった。
「見て回ろうか?」
ハリーが言った。寒さで少し肩をすぼめている。
「誰かの体を通り抜けないように気をつけろよ」
ロンが冗談まじりに言いながらも、目線は足元を警戒していた。
チユは、少しだけ笑った。
けれど、その笑みもすぐに凍るような空気の中へ、静かに吸い込まれていった。
