第6章 穢れた血、幽かな声
「おまえさんがそんなこと、するわけないって、知っとるさ」
ハグリッドが、大きな手でマグカップを包みながら言った。
暖炉の火がぱちぱちと木を焦がす音が、まるでハグリッドの言葉に拍手しているみたいに聞こえた。
「ロックハートにも、そう言ってやったわ。ハリーはそんな小細工なんぞせんでも、あの男よりずっと有名じゃってな」
ハグリッドの目が、子どものようにいたずらっぽくキラキラと輝いた。
「それからのう、ついでに言ってやったんじゃ。『あんたの書いた本なんぞ、一冊も読んどらん』ってな!」
「ええっ!」
思わずチユが口を押さえる。思いきりすぎて、少し笑ってしまった。
ハグリッドの正直すぎる言い回しが、なんだか痛快だった。
「そしたら、そそくさと帰っていきおったわ。おっ、ロン、ちょいとヌガーでもどうじゃ? 甘いもんで元気出るぞ」
ロンの顔が洗面器の上にまた現れた。
けれど、青白いその顔に笑顔はなかった。
「……いらない。気分が悪いから……」
「じゃあ、気晴らしに裏へ来いや」
ハグリッドが立ち上がると、大きな体が椅子をぎしりと鳴らした。
ハリーとハーマイオニーがマグカップを空にして、チユもそっと立ち上がる。
ハグリッドの小屋の裏庭に出ると、そこには土の匂いと日差しの中に、信じられないほど大きなカボチャが並んでいた。
「わあ……!」
チユが思わず声を上げる。
カボチャというより、大きな石の塊にしか見えない。
10個以上あるそれぞれが、子ども1人分くらいありそうだった。
「どや、よーく育っとるじゃろ。ハロウィーンの祭り用にな。あのころには、もっとええ大きさになるぞ」
ハグリッドは自慢げに胸を張った。
その顔は、さっきまでの話題の時よりずっと明るかった。
「肥料は……何を?」
とハリーが問いかけると、ハグリッドはちらりと肩越しに振り返って、周囲に誰もいないのを確かめた。
「……その、ちいっと魔法で助けとるんじゃ」
魔法省の決まりでは、ハグリッドのようにホグワーツを退学させられた者は魔法を使ってはいけないらしい。
けれど、彼がその禁を破ってまでカボチャを育てているのは、それだけ大切にしているからなのだと、チユにはわかる気がした。