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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第6章 穢れた血、幽かな声



ロンは真っ青な顔で、震える手を額にやった。汗が指の間を伝って、ぽたりと床に落ちる。



「『穢れた血』だなんて……狂ってるよ……。卑しい血だなんてさ、今時、魔法使いで純血なんてほとんどいないんだぜ?もしマグルと結婚してなかったら、僕たち、とうの昔に絶滅してるさ……」



その声の熱に押されるように、再びゲーゲーと音がして、ロンの顔が洗面器の上からふいに消えた。

ドサリと大量のナメクジが金属の底に落ちる音がして、チユは思わず後ずさった。



「うぅ……ま、まだ出てるの……?」



見るに見かねていたが、何もしてあげられない無力さが胸に刺さった。

情けないと思われたくなくて口を結ぶけれど、目元は今にも泣きそうだった。



「ウーム、そりゃあロン、やつに呪いのひとつもかけたくなるのも無理はねえなあ!」


ハグリッドの大声が、ナメクジの音をかき消すように響いた。
ハグリッドは薪をくべながら、どこか呆れたような、それでも温かい眼差しをロンに向けていた。



「だけんどよ、おまえさんの杖が逆噴射してくれて、むしろ助かったかもしれんぞ。ルシウス・マルフォイが、もし学校に乗り込んできて、おまえさんがやつの息子に本当に呪いをかけてたなんて知ったら、きっと騒ぎになっとった。……少なくとも、今のおまえさんは、それ以上の面倒には巻き込まれとらん」


チユはそっとロンの背中を撫でながら、心の中で思った。


(これが「助かった」ってことになるのかな……。
ナメクジ出てるのに……)



ハリーが何か言いかけたようだったが、口をぱくぱくさせるだけで声が出なかった。

口に入れていたハグリッド特製の糖蜜スガーが、上下の歯をセメントのようにくっつけてしまっていたのだ。


「ハリー!」


不意に思い出したように、ハグリッドが大声を上げた。
ハリーはぎょっとして、喉をひくつかせる。


「おまえさん、なんでも、サイン入りの写真を配っとるらしいじゃねえか。なんで俺にはくれんのかい?」


ハリーは怒りに任せて、くっついた歯を無理やりこじ開けた。


「配ってなんかない!ロックハートが、また勝手なこと言ってるんだ…!」


ふと横を見ると、ハグリッドはくしゃりと笑っていた。


「からかっただけだ」


そのひと言で、みんなの緊張がすっとほどけた。
チユはこっそり胸をなでおろす。
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