第6章 穢れた血、幽かな声
ハリーは、少し困ったような顔をしながらも、真剣な声で答えた。
「マルフォイが……ハーマイオニーのこと、何とかって呼んだんだ。ものすごくひどい悪口だったと思う。だって、みんな、すごく怒ってたから」
ハリーの顔に浮かぶ緊張が、ただ事ではない空気を伝えていた。
すると、テーブルの下から、ロンの青ざめた顔がひょいと飛び出した。
しゃがれた声で、途切れ途切れに言う。
「マルフォイのやつ……彼女のこと、『穢れた血』って言ったんだ、ハグリッド」
その瞬間、チユは唇を噛んだ。
チユでも、その言葉の意味を知っていた。
マグル生まれの魔法使いを、血が穢れていると蔑む。
魔法族の中でも特に血統を重んじる古い家系に伝わる、最も下劣で許しがたい侮辱の言葉だ。
ロンはまた顔を引っ込めると、苦しそうにナメクジを吐き出してしまった。
ハグリッドは目を見開き、怒りに震えながら吠えた。
「そんなこと、本当に言うたのか!」
ハグリッドの怒りに満ちた声に、チユは小さく首を振った。
「……言ったわ」
ハーマイオニーは、きゅっと唇を引き結びながら静かに答えた。
声は落ち着いていたが、その指先はかすかに震えていた。
「でも……どういう意味かは、私は知らない。ただ、すごく失礼な言葉だってことは、わかったけど」
チユはそっとハーマイオニーの隣に身を寄せた。
彼女を傷つけた言葉の重さを、胸の奥で必死に受け止めながら。
再び、ロンがテーブルの下から顔を出した。
途切れ途切れに、けれど力強く言葉を紡ぐ。
「思いつくかぎり……最悪の、侮辱の言葉だ。マグルから生まれたっていう意味の1つまり両親とも魔法使いじゃない者を指す最低の呼び方なんだ」
ロンの顔は蒼白で、それでもその目は怒りに燃えていた。
チユはぐっと拳を握りしめた。
そして、はっきりとした声で言った。
「人の価値は、血なんかで決まらないよ」
チユは、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。
その言葉に、ロンもハグリッドも静かにうなずいた。
ハーマイオニーは驚いたようにチユを見たが、すぐにふっと微笑み、小さく頷いた。
チユの胸の中には、今も怒りと悲しみが渦巻いていた。