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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第6章 穢れた血、幽かな声



ハリーは、少し困ったような顔をしながらも、真剣な声で答えた。


「マルフォイが……ハーマイオニーのこと、何とかって呼んだんだ。ものすごくひどい悪口だったと思う。だって、みんな、すごく怒ってたから」



ハリーの顔に浮かぶ緊張が、ただ事ではない空気を伝えていた。

すると、テーブルの下から、ロンの青ざめた顔がひょいと飛び出した。


しゃがれた声で、途切れ途切れに言う。



「マルフォイのやつ……彼女のこと、『穢れた血』って言ったんだ、ハグリッド」



その瞬間、チユは唇を噛んだ。



チユでも、その言葉の意味を知っていた。


マグル生まれの魔法使いを、血が穢れていると蔑む。
魔法族の中でも特に血統を重んじる古い家系に伝わる、最も下劣で許しがたい侮辱の言葉だ。


ロンはまた顔を引っ込めると、苦しそうにナメクジを吐き出してしまった。



ハグリッドは目を見開き、怒りに震えながら吠えた。


「そんなこと、本当に言うたのか!」


ハグリッドの怒りに満ちた声に、チユは小さく首を振った。


「……言ったわ」


ハーマイオニーは、きゅっと唇を引き結びながら静かに答えた。
声は落ち着いていたが、その指先はかすかに震えていた。


「でも……どういう意味かは、私は知らない。ただ、すごく失礼な言葉だってことは、わかったけど」



チユはそっとハーマイオニーの隣に身を寄せた。
彼女を傷つけた言葉の重さを、胸の奥で必死に受け止めながら。


再び、ロンがテーブルの下から顔を出した。
途切れ途切れに、けれど力強く言葉を紡ぐ。



「思いつくかぎり……最悪の、侮辱の言葉だ。マグルから生まれたっていう意味の1つまり両親とも魔法使いじゃない者を指す最低の呼び方なんだ」



ロンの顔は蒼白で、それでもその目は怒りに燃えていた。


チユはぐっと拳を握りしめた。
そして、はっきりとした声で言った。



「人の価値は、血なんかで決まらないよ」


チユは、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。


その言葉に、ロンもハグリッドも静かにうなずいた。
ハーマイオニーは驚いたようにチユを見たが、すぐにふっと微笑み、小さく頷いた。


チユの胸の中には、今も怒りと悲しみが渦巻いていた。
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