第6章 穢れた血、幽かな声
チユは、そっとロンの背中をなでながら、そばにしゃがみ込む。
「ロン……ちゃんと出して。大丈夫、ここにいるからね」
横でハーマイオニーが真剣な顔で言った。
「あの呪いって、ただでさえ難しいのよ。まして杖が折れてたら……」
「まったくじゃな……無理すりゃ、自分に返ってくる」
ハグリッドは腕まくりして、手早くお茶の用意を始めた。
犬のファングがどこからかやってきて、チユに威嚇を始めた。やはり動物は苦手だ。
そんなチユをよそに、ハリーがファングの耳をカリカリと指でなでながら、ハグリッドに尋ねた。
「ねえ、ハグリッド、ロックハートは、なんの用だったの?」
「井戸の中から水魔を追っ払う方法を、俺に教えようとしてな」
ハグリッドは唸るように言いながら、テーブルの上に置かれた半分羽根のむしりかけの雄鶏を、どかっと脇へ押しやり、ティーポットを真ん中にドンと置いた。
チユはぎょっとして、ハーマイオニーの腕を掴む。
「に、にわとり……」
ハグリッドはふん、と鼻を鳴らして続けた。
「まるで、俺が何も知らんとでも言うようにな。その上、自分が泣き妖怪とかなんとかを追っ払った話を、さんざぶち上げとった。やっこさんの言っとることが1つでも本当だったら、俺はへそで茶を沸かしてみせるわい!」
ハグリッドのあまりの剣幕に、チユはびくっと肩を震わせた。
「それって……少し偏見じゃないかしら。ダンブルドア先生は、あの先生が1番適任だとお考えになったわけだし──」
ハーマイオニーはいつもよりちょっと上ずった声で反論した。
「他には誰もおらんかったんだ」
ハグリッドは砂糖をボウルにこんもり入れながら言い、みんなに皿をすすめた。
ロンはその横で洗面器に顔を突っ込み、ゲボゲボとナメクジを吐き続けている。
チユはそっと、ロンの背中をさすった。
(ロン……かわいそうに……)
「1人もおらんかったんだ。闇の魔術の先生をするもんを探すのが難しくなっちょる。だーれも進んでやろうとせん。みんな縁起が悪いと思いはじめたんだな。ここんとこ、だーれも長続きしたもんはおらんしな」
ハグリッドはぼそぼそと続け、ふっとロンをあごでしゃくった。
「で、誰に呪いをかけるつもりだったんかい?」