第6章 穢れた血、幽かな声
チユは、3人を追いかけていた。
だけど、姿が見えない。どこに行ったのか、道の先に影はない。
「ハリー?ハーマイオニー……?」
小道の先で立ち止まり、首を傾げたとき――
「チユ! しーっ!」
茂みの中から、低い声が聞こえた。
葉がガサリと揺れて、小さな指先がぴっと突き出されている。
「……え?」
思わずその指の先を見る。
木々のあいだから覗く視線の先に、鮮やかなローブが揺れていた。
――ロックハート。
ツヤツヤの金髪を風にそよがせて、ロックハートは優雅な足取りでゆったりと小道を歩いていく。
何か鼻歌のようなものを口ずさみながら、満足げに笑っていた。
思わず息を詰めて、チユも茂みの中へ身を隠した。
すぐそばでハリーたちが固まっていて、ロンはまだ青ざめている。
ロックハートが姿を完全に消すまで、誰も動けなかった。
やがて、城の影にロックハートのローブのすそが吸い込まれるように消える。
「……行ったみたい」
ハリーが安堵の吐息をこぼすと、チユはこくりと頷いた。
「なるほど……隠れてたの、ロックハート先生のせいだったんだね」
ハリーが「とにかく急ごう」と言い、ハーマイオニーがロンの肩を支える。
「まだ……ちょっと気持ち悪い……」
ロンが弱々しくうめいたとき、また1つ、ナメクジが落ちた。
ハグリッドの小屋に、ハリーが真っ先に駆け寄り、ドアをドンドンと叩いた。
「ハグリッド!」
「なんじゃ、ロックハートか……?ったくまた……」
内側から不機嫌そうな声が漏れてきて、続いて重たい扉がぎぃ、と開いた。
でも、出てきた顔がハリー達だとわかると、ハグリッドの表情が一変する。
「おお!なんじゃお前らか! 入った、入った!……いやな、ロックハートかと思って……!」
小屋の中は暖かく、ほのかに甘い香りが漂っていた。
隅には大きなベッド、そして暖炉の火がぱちぱちと音を立てている。
どこか懐かしいような、安心できる匂いと音。
ハリーが急いで事情を話すと、ハグリッドはにっこりと笑って、どっかりとした手つきで大きな銅の洗面器をロンの前に置いた。
「出てこんよりは出た方がええ。さあ、ロン、全部吐いちまえ」
ロンがため息をつきながら、器の中に体をかがめる。
ぬめりとした音がまたひとつ、小屋に響いた。