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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【2】

第6章 穢れた血、幽かな声



「……チユ、行こう?」


ハーマイオニーが振り返って呼びかける。
けれどチユは、ただ首を横に振った。


「先に行ってて」


言葉は短かったけれど、声の奥に含まれた怒りの温度は明らかだった。


そして、くるりと踵を返して――
マルフォイのほうへ、ゆっくりと歩き出した。

まだ地面に拳をついて笑っていたマルフォイは、彼女の気配に気づき、ふと顔を上げた。


「……ん? なんだ?」


マルフォイの言葉が終わる前に、
チユの小さな拳が、彼の頬を打った。

パシン、と乾いた音がグラウンドに響く。


「……っ!」


マルフォイは、驚きと痛みで呆然とした顔になった。
頬に手を当て、ぽかんとチユを見つめる。


「本当に最低……!」


チユの目には涙がにじんでいた。
怒りと、悔しさと、そして――大切な人を傷つけられたことへの、どうしようもない悲しみ。


「絶対、許さない」


その一言を残して、くるりと踵を返す。

その背中を、少し離れたところから見ていたフレッドとジョージが、同時に口を開いた。


「俺らより先にぶん殴るなんて、ズルいぞ!」

「さっすが! 我ら獅子寮のお姫様だ!」


フレッドが満足げに腕を組み、ジョージはにやっと笑う。
マルフォイはまだ頬を押さえたまま何か言い返そうとしていたが、その視線の先でフレッドとジョージが彼に向かって歩き出すと、さすがに気配を察して後ずさった。



「これでもう一発でも笑ってみろよ?」

「次は俺らがいくからな?」


双子の圧に、マルフォイは口を引きつらせ、ひとまず逃げるようにスリザリンの連中の方へ戻っていった。

そんなやりとりを背に、チユはふうっと小さく息をつくと、
スカートの裾を払い、ハリーたちのあとを追って歩き出した。


拳はまだ、じんじんとしていたけれど――
心の中は少しだけ、晴れた気がした。
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