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短編集(いろいろ)

第1章 五条悟




誰にも言わなかった。

あの日のことも、この十年間抱え続けてきた後悔も。

なのにどうして、そんなことまで知っているの。

私が言葉を失ったまま立ち尽くしていると、悟くんは小さく笑った。

だけどその笑顔は、どこか寂しそうだった。

「僕は最強だからさ。仮に柚希が弱点だったとしても守り抜けたし、結婚だってどうにでもなった。」

そこで一度言葉を切る。

冷たい風が二人の間を通り抜けた。

「でも当時の僕は、そんなこと考えもしなかった。柚希の気持ちも、苦しみも、全然わかってなかった。」

悟くんは自嘲するように視線を落とした。

「だから別れてからはさ、憂さ晴らしみたいに手当たり次第女と遊んだ。」
胸の奥がずきりと痛む。

見たくなくても目に入ってきた噂や記事。

隣で笑う知らない女の人たち。

忘れようとするたびに、その姿ばかりが頭に浮かんだ。

「そのたびに柚希が暗い顔してるのには気づいてたよ。」

私は思わず顔を上げる。

悟くんはまっすぐ私を見つめていた。

「でも、自分から別れたんだろって思って見ないふりをした。」

その声には後悔が滲んでいた。

「そうしてるうちに柚希は京都校へ転校してさ。好きな男もいるって聞いた。」

ふっと苦く笑う。

「だから本当に終わったんだなって思った。もう二度と戻れないんだって。」

握られた手に力がこもる。

「それで、柚希への気持ちに蓋をした。」

静寂が落ちた。

聞こえるのは風に揺れる木々の音と、自分の鼓動だけ。

私は大きく息を吐いた。

胸の奥に押し込めていた感情が、今にも溢れ出しそうだった。

悲しかった。
苦しかった。
でも――。
十年越しに知った彼の本当の気持ちが、どうしようもなく嬉しかった。
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