第1章 1
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──23:49
やっと最寄り駅まで帰ってきた。
改札を出てそのままアパートに戻ろうと歩き出した私は、ケーキを買っていなかったことを思い出し、いつも使っているコンビニへと足を向けた。
ありがとうございましたー、という声に見送られて、今度こそ私はアパートに向かって歩き出した。
「ふふ、ケーキ♪」
2つで300円の安いケーキだけど、紅茶を入れて静かな音楽を流して、少しだけ優雅な気持ちで食べるつもり。
そういえば隣の部屋の子、今日は彼氏さんの家に泊まりに行くって言ってたっけ……それなら多少うるさくても大丈夫かな…。
そんなことを考えながら歩いていたら、あっという間にアパートの駐車場に着いた。
「ん?」
──駐車場の、よりによって私が借りているスペースに、見たことのない車が停まっていた。
……ううん、見たことは…あるような気はするけど…。
隣の子の彼氏さんの車かな…。
まだ温かい感じがするし、つい今さっき停めたなら深夜だし間違ったのかな、とあまり気にせずに、私は2階に上がる階段を上がった。
「…誰かいる…!!」
バッグの中から鍵を取り出しながら階段を上がると、私の部屋のドアにもたれるようにして座っている人影が見えた。
(え?え?誰?何で私の部屋の前にいるの??)
少しずつ姿勢を低くして相手に見つからないようにし、私は人影の様子を窺った。
(…髪は黒で…ちょっと長め……ピアス…してるかな…暗くて分からないや…。ちょっと女の子っぽいけど…あの腕は男だな。……誰?)
知り合いの中に、当てはまる人物はいない。
怖くなった私は、とりあえずこの場から離れようと階段を一段降りた。と。
「あっ」
部屋の鍵が、手からすり抜けるようにして落ちてしまった。
「──彩夏?」
鍵を落とした音で、ドアの前の人影がこちらを見、立ち上がって近付いてきた。
──怖くて声が出ない。
歯がガチガチと鳴る。
「彩夏、俺や」
薄暗い通路の電灯の下まで歩いてきた人影は、階段にしゃがみこんでいる私に手を延べた。
電灯の明かりで、やっと顔が見えた。
が、顔を見て私は更に驚いた。
「や…yasuさん!?」
驚きのあまり、大声を出した私の口を容赦なく手で塞ぐyasuさん。
「声がデカイっ!!もう0時回っとるんやで!?近所迷惑や!!」
「す、すみませんっ」