第2章 まどろみのなかで
ランダルに手を引かれ、私は静かな廊下を歩いていた。
朝の光が障子のような窓越しに差し込み、床に淡い影を落としている。
私は彼よりも背が低い。髪は肩より少し長く、服は地味で動きやすいものを着ていた。
目立たないその外見を、ランダルは時々「かわいい」と言った。
「って、ほんと、ぬいぐるみみたいなんだよねぇ」
そう言いながら、ランダルは私の髪をすっと撫でる。
指先はやわらかくて、けれどどこか執拗で。
髪の流れをなぞるように、首筋まで指が触れて、かすかに鳥肌が立った。
「セバスチャンとは違うんだよねぇ。きみって、ちゃんと弱そうで、ちゃんと守ってあげなきゃって感じで……うん、すき」
そのまま後ろから片腕を回されて、背中に彼の額がぽすんと当たる。
けれど、すぐに離れて、ふわりと笑いながらまた歩き出す。
「さてさて、きょうはなにして遊ぼうか~?」
スキップ気味に歩きながら、ランダルは片手をひらひらと振って、楽しげに考えを巡らせている。
「“まねっこあそび”でもいいし、“だるまさんがころんだ”もやりたいなぁ……あ、“すべらない話ごっこ”っていうのも思いついたんだよね。ぼくが全部しゃべるけど♡」
私は何も返さない。
それでも、彼は私の沈黙にまるで疑問を持たないまま、ずっと楽しそうだった。
「セバスチャンも、もうそろそろ来るよ。三人って、ちょうどいいでしょ?」
“でしょ?”と言いつつ、答えを待つ気配はない。
私はただ手を引かれたまま、足音を合わせて進んでいく。
やがてランダルが、ふかふかの敷物が敷かれた広い部屋の前で立ち止まった。
「ここが、きょうの遊び場~」
振り返ってにこりと笑った彼の目は、まっすぐ私だけを見ていた。
ドアの向こうで何が待っているのか、まだ知らないまま。