第2章 まどろみのなかで
部屋の奥には、つまらなさそうに、どこか不安げに身を縮めたセバスチャンがいた。
彼は細身の体を丸めるようにして、床に座っていた。
投げ出された脚も、折り曲げられた背中も中途半端で、どこか「居心地の悪さ」をそのまま形にしたようだった。
鮮やかなオレンジがかった赤毛は、くるくると強く縮れ、光を散らすように膨らんでいる。
手入れされた気配はなく、それでも自然にまとまっているのは、本人の性格によるものではないだろう。
白地にネイビーのベストが重ねられた、クラシックなピエロ服のような衣装。
膨らんだ袖とズボン、締まった手首と足首。胸元の三つの大きなボタンが、無言のまま彼を装飾していた。
ひし形の目。黒い点のような瞳。
その顔には感情が浮かばず、けれど頬に点在する淡いそばかすが、妙に人間らしさを残していた。
「やっほー、セバスチャ~ン。待った?」
ランダルが軽い足取りで部屋に入ると、セバスチャンはほんの少しだけ顔を上げた。
その目は乾いていた。眠たそうというより、醒めていた。
「……別に、急いでたわけじゃない」
ぶっきらぼうにそう言うと、また視線を落とす。
「ふふ、冷たいなぁ。でも、ちゃんと来てえらいね。よしよし」
ランダルが冗談っぽく言いながら髪に手を伸ばすと、セバスチャンは体をわずかに傾けて、さりげなくかわした。
怒るでも、拒絶するでもない。
ただ、そういう時はそうすると決めているだけのようだった。
私は少し遅れて、部屋に足を踏み入れた。
足元の絨毯はやわらかく、沈み込む感触が無音のまま足を受け止める。
空気は重たく、外との温度差がやけに皮膚にまとわりついた。
ランダルは私の手を離し、今度は背中に手を回して、ぐいっと前へ押し出す。
「さぁ、準備は完璧。あとはなにするかだけ!」
両手を広げる彼の笑顔には、期待と支配、そしてどこか甘やかな熱が宿っていた。
セバスチャンは無言のまま、その様子を見ている。
そして私は——
ふたりのあいだに立ち、ただ黙って、その空気に身を沈めていた。