第7章 らっとまんはんと
その言葉を境に、廊下に静けさが落ちた。
血のにおいも薄れ、風の音すら聞こえるような気がする。
ふたりの間に満ちていたぬくもりが、ゆるやかに溶けていく――そのとき。
廊下の奥から、どこか軽やかで、少しせっかちな足音が聞こえてきた。
テンポの速いその音は、まっすぐにこちらへ向かってくる。
私は、その足音を知っていた。
ランダルだった。
小さく跳ねるようなリズムで近づいてきた彼は、
ふたりの前に現れると、にこりと笑って手をひらひらと振った。
「おつかれさま、。……こわくなかった?」
私の前で立ち止まると、ランダルはしゃがみこみ、目線を合わせてくる。
その声も、仕草も、“迎えに来た”主のようだった。
「ちゃんと、ニョンと一緒にいたね。えらい、えらい」
白い手袋ごしに、ふわりと私の頭を撫でながら、
ランダルはちらりとニョンの方へ視線を向ける。
「ありがとね、ニョン。のこと、ちゃんと守ってくれて」
ニョンはわずかに目を伏せ、小さくうなずいた。
その耳の先がほんのり赤くなっていたのは、気のせいだったかもしれない。
ランダルは立ち上がり、私の手をとった。
くい、とやさしく引かれて、私は自然とその動きについていった。
ふたつの足音が並んで廊下を離れていく。
そのテンポはやや速くて、でもどこか楽しげだった。
その背を、ニョンは黙って見送っていた。
空気が、ひとつの区切りを迎えたように感じられた。