第7章 らっとまんはんと
ニョンは一歩、私のそばへ近づいた。
「……あの、その……足元が危ないので……」
言いながら、彼は少し緊張したような動きで手を差し出した。
指先がゆっくりと上を向き、手のひらが静かにひらかれている。
――それはたぶん、「手をつなぐ」ための形だった。
けれど私は、そんな意図を知らなかった。
その手を見つめて、そして――
抱き上げてもらえる合図だと思った。
だから、ためらいなく一歩踏み出した。
そっと腕を伸ばして、ニョンの胸に自分から身体を預ける。
両腕をまわすように、自然に、彼の首元に腕を絡めた。
ふわりと足が浮き、肩がやわらかな生地に触れる。
ぶ厚くて、あたたかい腕が、また、私の体を受け止めていた。
「え、えっ……えええ……!?……っ、な……なんで……」
ニョンの声が上ずり、しどろもどろになる。
目をぱちぱちさせて、顔が明らかに固まっている。
けれど、私は何も言わず、ただ静かに、身を預けていた。
その動きに特別な感情はない。ただ、そうすることが自然だった。
ニョンは口を開きかけて、何度も閉じたあと、
小さく息をのんで、抱き直すように腕を整えた。
「……そ、そういうつもりじゃ……なくて……」
顔がほんのり熱を持ったように見えたが、
私の腕がしっかり首にかかっているのを感じると、彼はもう何も言わなかった。
「……わ、わかりました。気をつけて、いきますね……」
少しだけ強張った足取りで、でも優しく、ニョンは歩き出した。