第7章 らっとまんはんと
そのときだった。
足元に転がっていた缶詰に、私は気づかず、つま先を引っかけた。
身体がふわりと浮き、前のめりに傾く。
「あ……」
声を出す暇もなく、私はそのまま倒れかけた――
――けれど。
ぶ厚くて、あたたかい腕だった。
驚いた気配はあったけれど、その腕は何も言わず、私をしっかりと支えていた。
体が止まり、私はそっと目を開けた。
そこにはニョンの顔があった。
普段と変わらないようでいて、その表情にはうっすらと焦りがにじんでいた。
「だ、大丈夫……ですか?」
声が少しだけ震えていた。
けれど、それは恐怖ではなく――きっと、慌ててしまったことへの戸惑いだった。
私はうなずいた。
痛くはないし、怖くもなかった。
むしろ、どこか安心したような気さえした。
ニョンは腕をそっと離しながら、小さく身をすくめるようにして頭を下げた。
「す、すみません……突然、触れてしまって。……びっくり、させましたよね……?」
目線は合わせず、手元を見つめて、肩をほんの少しだけ縮める。
その様子が妙に真面目で、不器用で、
私は思わず、小さく首を振った。
優しかった。
素早かった。
そして――私をちゃんと守ってくれた。
「ありがとう」
声には出さなかったけれど、胸の奥でそう思った。
ニョンの耳が、かすかに赤くなった気がした。