第7章 らっとまんはんと
私はニョンの後ろを静かに歩いた。
廊下の板がところどころきしむたび、ニョンはそっと足を止めて、空気の流れを読むように耳をすませた。
動きは静かで、どこか品があって、それでいて――とても真剣だった。
ニョンの指先が、壁のほこりに触れた。
指先にかすかに残った粒を見て、小さくうなずく。
「……たぶん、このあたりに入った跡ですね」
低く、小さな声で呟く。
それは私に話しかけているというより、自分に言い聞かせているようだった。
ドアのすき間、壁のヒビ、家具の影――
ニョンの目は、何かを“見抜いている”ような動きで動いていた。
私は何も言わず、その後ろにぴたりとついていく。
ただ、それだけでよかった。
部屋の角、棚の下、空気のたまり。
ニョンはひとつひとつ、順番に確かめていった。
そして、キッチンの端にある古いパントリーの前で、ニョンは立ち止まった。
「ここ……缶詰の位置がずれています。足跡も……微かですが、あります」
言われて見れば、棚の奥にひとつだけ転がった缶詰。
そして、わずかに床についた爪痕のような線。
ニョンはしゃがみこんで、それらを見つめたあと、小さく鼻を鳴らした。
「……追いかけて、捕まえるのもいいですが、まずは進路を読んだ方が早いですね」
その姿はまるで、探偵のようだった。
私はただ、すごいなあと思って見ていた。
ラットマンを探すって、こんな風にするんだ。
ニョンの冷静さと、無駄のない動きに、私は自然とその背中に引き寄せられていった。