第6章 おしえて、るーさーさん
のまぶたが、ゆっくりと閉じた。
ああ、かわいい。
すごく静かで、おだやかで、でもちゃんと生きてる。
ぬくもりがあって、息をしてて、触れたらふるえて、
撫でればすこしだけまるくなる。
ボクの声に反応して、くっついてくる。
最初は、もっとこわばってたのに。
あの日、ボクの棺に入ってきたときの、あの顔。
不安でいっぱいで、どこにも居場所がないみたいな目をしてた。
……でも今は違う。
ボクがいれば、ちゃんと近くに来る。
目を合わせなくても、言葉がなくても、ぴたりとそばに寄ってくる。
まるで、忠犬みたいに。
ついてきてくれる。
くっついてくれる。
そして、こうして、眠るときはボクの腕の中にすっぽり収まってくる。
まるで、ずっと前からボクのペットだったみたいに。
アイボリー家での日々を、もう“当たり前”みたいに感じてる。
にとっての毎日は、ボクと一緒に過ごすことでできている。
朝起きて、誰かに撫でられて、日中は兄さんやみんなといて、
夜になれば、ボクの棺に入って、同じ毛布に潜って、こうして眠る。
それが正しい。
それだけで、完璧。
“それ以前”なんて、いらない。
学校? 家族? 好きな人? バイト?――知らない。知らなくていい。
ボクに撫でられて、ボクに呼ばれて、ボクの隣にいる今が、すべて。
ボクがいない間、どんなふうに過ごしてたか、ちょっと気にはなるけど。
でも、ちゃんと戻ってきてくれる。
それがわかってるから、平気になった。
この子は、ちゃんと“なじんだ”んだ。
家に。アイボリー家に。そして、ボクに。
ゆっくり、棺の蓋に手をかける。
軋む音が、小さく響いて――
カチン、と、世界が閉じた。
闇とぬくもり。呼吸と鼓動。布の重さ。
それだけが、棺の中に残った。
が、ボクの腕の中で眠ってる。
誰よりもやわらかくて、誰よりも素直で、ちゃんと生きてるペット。
ねぇ、――
こうして生きてくれてありがとう。
こうして、ボクになついてくれてありがとう。
……ほんとうに、いいこだね。
かわいくて、かわいくて、たまらない。