第6章 おしえて、るーさーさん
蓋が閉じられてからの棺の中は、深いぬくもりで満ちていた。
光も音も届かず、肌に密着する布と、こもった空気と、呼吸の熱だけがあった。
は、ほとんど動かない。
胸の奥でゆっくりと上下する呼吸が、かすかに毛布を持ち上げて、また沈めていく。
ランダルはその動きを確かめるように、じっと黙ったまま寄り添っていた。
そして、静かに、撫ではじめた。
髪をなぞり、首筋を探り、肩口に手のひらを滑らせて、
背中のふくらみを、布の上からやわらかく包み込むように撫でる。
動きは穏やかで、優しいふりをしていたけれど――
まるで毛並みを確認するような手つきだった。
ぴくりと、の肩がほんの少しだけ動いた。
無意識のなかで、くすぐったさを感じたのかもしれない。
それとも、単に夢の中で寝返りを打っただけか。
それすら、ランダルは嬉しそうに感じていた。
彼は指先で何度も、何度も、同じ場所をゆっくりとなぞった。
そこに意味があるようで、でも、たぶん意味なんてなかった。
ただ、撫でていたいだけ。ただ、触れていたいだけ。
棺の中の空気は、ぬるく、濃く、湿っている。
ひとつの毛布にふたり。ひとつの吐息に、ふたつの体温。
は、すでに深く眠っていた。
安らかで、あたたかくて、ふわふわと浮かぶような時間に、すっかり沈みこんでいた。
その眠りを乱さぬよう、ランダルの手は最後にもう一度、背中をひと撫でしたあと、
そっと、止まった。
暗闇のなか、何も起こらないことが、ただ続いていく。
ふたりだけの夜が、ゆっくりと、完全に閉じていく。