第6章 おしえて、るーさーさん
ランダルの手が、私の頭に触れていた。
汗ばんだ掌が、そっと髪を撫でる。
学校帰りのにおいと、少し蒸れた制服の匂いが混ざっていた。
私は少しだけ、首を傾けてその手に甘える。
そして、静かに両腕を前に伸ばした。
なにも言わず、ただ、だきしめてほしいという気持ちだけをこめて。
ランダルはきょとんと目を丸くしてから、すぐに表情をゆるめた。
「よしよし、……さみしかったよね」
ひとこと呟くように言って、私をそっと胸に抱き寄せる。
抱きしめるというより、ふわりと包み込むようなかたちだった。
私はランダルの制服に頬を寄せた。
少し湿っていて、ぬるくあたたかかった。
すぐそばでニョンがしっぽをゆらしていた。
倒れかけた耳が、ふにゃりとやわらかい。
ニェンはソファにもたれたまま、大きくあくびをひとつ。
もはや威圧の気配はなく、ただ、少し眠そうなだけ。
「おかえり。学校はどうだった?」
そのとき、奥からルーサーの声が聞こえた。
キッチンの入口に立ち、袖をまくり、エプロンをつけている。
「さあさ、夕飯の準備はできているよ」
淡々とした声に、かすかにやさしさが混じっていた。
「ほんと?やったー!おなかぺこぺこー!」
ランダルは私を抱いた腕をそっと離し、今度は手を取った。
にこにこと笑いながら、子どものように私の手を引いて歩き出す。
私はその手に素直に引かれながら、歩きはじめた。
なんのためらいもなく、それが自然なことのように感じていた。