第6章 おしえて、るーさーさん
ゆっくりと時間が流れていた。
ニェンは腕を組んでソファにもたれ、片脚をゆらゆらと揺らしている。
ときどき、鼻で息を抜くような音を立てるけれど、それ以外はとても静かだった。
ニョンは私の足元に座り、しっぽをくるりと巻いたまま、目を細めていた。
ときおりこちらを見上げては、また何も言わずに目を伏せる。
私は、ソファの背にもたれて、指をひとつずつ折って遊んでいた。
言葉も音も、もういらないような空気が、そこにはあった。
――カチャ、と小さな音がした。
玄関の鍵が開き、外の世界の気配が、すこしだけ家の中へ流れ込んでくる。
つづけて、ぱたん、とドアの閉じる音。
そのすぐあとに、明るい声が響いた。
「ただいまーっ」
廊下の奥から、元気な足音が近づいてくる。
そのリズムには、聞き慣れた調子があった。
足音はリビングの入り口で止まり、ランダルが顔をのぞかせる。
学ラン風の制服に、肩にカバン。いつもの格好。
でも、目が私を見つけたとたん、ぱっと輝くように見えた。
「っ、いたっ」
ランダルは駆け寄ると、私の座っているソファの前でぴたりと止まった。
視線が、私と、私の横に座っているニェンと、足元のニョンをぐるりとひとまわり。
「……ん?なにこれ、なかよししてる?」
にやにやと笑いながら、私の頭の上に手を乗せる。
その手は、ほんの少し汗ばんでいた。