第6章 おしえて、るーさーさん
「……べつに、すごくはねぇよ」
そう言ったあと、ニェンは一歩、私から距離をとった。
その顔にはまだ険が残っていたけれど、足取りは少しだけ乱れていた。
怒っているのか、照れているのか、どちらとも言えないような表情。
ソファの前から離れ、手持ち無沙汰に腕を組み直す。
「……ま、当然だけどな。オレの仕事だし」
その声はさっきよりずっと低く、背中を向けたままぼそっと落とされた。
ふと、ほんの少しだけ肩の力が抜けたようにも見えた。
ニェン自身が気づいているかはわからないけれど――その横顔には、わずかに、見直したような気配があった。
(……思ったより、話のわかるやつかもな)
そんなふうに心のどこかで認めてしまっているのかもしれなかった。
ニョンが、ぴくりと耳を立てた。
ゆっくりと立ち上がり、足音を立てないように私の近くまで歩いてくる。
その表情には、ほっとしたような、けれどまだ不安の尾を引いているような複雑な気配があった。
私は、ソファの上で小さく体勢を変えた。
特に意味はなかった。
でも、ようやく少しだけ空気が軽くなった気がした。
それがなぜかは、わからなかったけれど。