第6章 おしえて、るーさーさん
「……さ」
低く落ちた声が、静けさを割った。
ニェンの口が開いた。
「……調子に乗んなよ」
その目は、真っ直ぐ私を見ていた。
睨むでも、怒鳴るでもなく、じっと、押しつけるような視線。
「ご主人様の膝に乗ったくらいで、気に入られたとでも思ってんのか?」
言葉の端が鋭い。噛み砕かずにそのままぶつけてくるような。
「優しくしてくれたからって……それ、オマエのためじゃねぇからな」
私は何も言わずに見上げていた。
目だけを動かして、ニェンの顔を見た。
ニェンはさらに顔を近づけてくる。
「……ご主人様は、誰にでも優しいわけじゃない」
「お前なんかに、……ほんとは触らせたくなんか、ないはずなのに」
鼻先が触れそうなほどの距離。
けれど、手は出さなかった。出せなかった。
ルーサーの声が頭にちらついたのだろう。
“仲良くするんだよ”――それが、簡単な呪縛として残っている。
そのかわりに、口が止まらなかった。
「ご主人様のやさしさを、当たり前みたいに受けとってんじゃねぇよ」
「おまえは……おまえなんかは……」
その言葉の続きは、声にならなかった。
ただ、吐き捨てるような呼吸だけが、私の頬にかかった。
そのすぐ背後で、ニョンがまたしっぽを揺らした。
耳が伏せられ、目だけが不安げに動いている。
それでもまだ、誰も動かない。