第6章 おしえて、るーさーさん
私は、大きくひとつ、あくびをした。
目元を指でこすりながら、まだ重たい頭の中を、少しずつ動かそうとする。
布をずらして体を起こし、まわりをぼんやりと見回した。
ルーサーの姿はなかった。ランダルの気配も、ない。
きょろ、きょろ、と首だけを動かす。
部屋の隅、廊下の入り口、窓辺。誰もいない。
そのとき――
ソファの前で、影が動いた。
ニェンだった。
静かに、けれど迷いなく立ち上がり、こちらへ歩いてくる。
視線は逸らさない。
一歩ごとに、靴音も爪音もなく、ただ空気だけが重くなっていく。
私の目の前で、ぴたりと止まった。
ニェンはソファに座った私を、真上から見下ろしていた。
無言のまま、圧をかけてくる。
顔の表情は変わらないのに、気配が肌を刺す。
私は、少しだけ上を向いた。
こわいなあ、と思った。
でも、それだけだった。
そのすぐ脇――ニョンがわずかに身じろいだ。
足元に力を入れ、いつでも飛び出せるような姿勢を取っている。
耳は伏せ気味で、しっぽが震えている。
もしものときは自分が止めねば、と言いたげな空気が、全身に張り詰めていた。
ルーサーの言葉が、きっと、頭にあったのだろう。
けれど、今のところ、誰も、何も、言わなかった。