第6章 おしえて、るーさーさん
意識の輪郭が、静かに溶けていく。
ルーサーの手が、まだ髪に触れていた。
それが心地よいとも、あたたかいとも、思わなかった。
けれど、目を閉じることにためらいはなかった。
呼吸が浅くなっていく。
手のひらの感触が、猫の背を撫でるようにやわらかく上下していた。
「……あら、かわいい」
その声は、どこか遠くから聞こえた。
誰が言ったのかもわからなかった。
何も映らない夢の中に、私はすとんと落ちていった。
***
目が覚めたとき、そこにルーサーの姿はなかった。
私はソファの上にいた。
体は寝かされるように置かれており、上にはふわりと布がかけられていた。
すぐ近くに、ニェンがいた。
あいかわらずソファの端に座り、腕を組んで、こちらを睨むような目で見ていた。
寝ている間中、ずっとそうだったのではないかと思わせる視線だった。
ニョンは少し離れた場所で、ぺたんと座り込んでいた。
時折、私とニェンを見比べながら、しっぽをくるりと巻きつけて、身じろぎもせずに固まっている。
その空気は、どこか三角に歪んでいた。
私はゆっくりと身を起こした。
何も言われていないのに、なにか悪いことをしたような気がした。
そんな感覚だけが、寝起きの頭の隅に残っていた。