第6章 おしえて、るーさーさん
ルーサーの手は、私の首筋から肩へとすべる。
そのまま、背中を包むようにして、やわらかくなぞった。
抱きしめるほどの強さではなく、けれど、そこには確かに「触れている」という事実だけがあった。
私は、少しだけ身体を傾ける。
ごく自然に。
膝の上から、ルーサーの胸のほうへと、静かにもたれかかっていった。
抵抗はなかった。違和感もなかった。
ほんの数分前まで、自分の中に何かがあった気がする。
小さくて、かすかで、名のつかないもの。けれど、それはもう、思い出せなかった。
喉の奥に引っかかっていたような感覚もない。
目の裏にこびりついていた像もない。
あるのは、ただ今の体勢と、ルーサーの手の重みだけだった。
「……うん」
ルーサーはそれだけを言って、私の髪をひと撫でした。
その手の動きに、私はまた少し、身体を預けた。
たぶん、これでいいのだと思った。
思った、というより、そう“なっていた”。