第6章 おしえて、るーさーさん
指が抜けたあと、ルーサーはしばらく私を見ていた。
ただ見つめる。まるで、手入れの終わった道具がちゃんと動くかどうか、確認しているかのように。
私もまた、何も言わず、じっとしていた。
やがて、ルーサーの手がもう一度伸びてくる。
今度は頬にそっと触れただけだった。
そのまま、耳の下から顎のラインをなぞるようにして、指がすべっていく。
そこに悪意はなかった。温もりも、やさしさも、なかった。
ただ、記録するように。なにかを確かめるように。
「……うん。よくできたね」
ぽつりと、そんな声が落ちた。誰に向けて言ったのかもわからない。
けれど、否定されなかったことが、ひとつの結果として残った。
ソファの端で、ニェンがわずかに動いた。
ルーサーの言葉に反応したのか、こちらを睨む目に、さらにひとしずくの鋭さが加わった気がする。
ニョンは、まだテレビを見ていた。けれど、時折、視線が私のほうへ揺れる。
私はというと、また指をもてあそぶように、膝の上で手を動かし始めていた。
何かが変わった気がする。でも、何が変わったのかは、わからなかった。
わからないままでいることは、きっと平気だった。
少なくとも今の私は、それを怖いと思っていない。