第6章 おしえて、るーさーさん
指先は、皮膚の奥へと静かに沈んでいた。
痛みはなかった。けれど、確かに“何か”が触れられている気配はあった。
粘つく膜のようなものを抜けて、その先に漂う、やわらかく、あたたかく、色のない何か。
ルーサーは無言のまま、ほんの少し指を動かした。
その動きに合わせて、頭の奥がきゅうっと締めつけられるような感覚が走る。
目の前がかすんで、景色が揺れる。
テレビの中の人間が笑っていたはずなのに、今は何をしているのか分からない。
「ここ……だね」
ルーサーの声がした。
どこか満足そうに、けれどそれを声色にのせることなく、事務的に。
指先が、その一点を押す。
記憶の形をしていない“なにか”が、静かに弾けた。
私は思わず、瞬きをした。
何かが……なくなった気がする。
けれど、それが何だったのかは、もう分からなかった。
失ったのか、ほぐされたのか、最初から無かったのか。
ルーサーは指を引き抜いた。
肌は何事もなかったように元のまま、傷ひとつついていない。
ただ、そこに一瞬だけ残っていた感触だけが、じわりと肌の内側に染みついていた。