第6章 おしえて、るーさーさん
ルーサーは無言でリモコンを取り上げ、テレビをつけた。
何のチャンネルかはわからない。明るい映像が瞬き、どこかの誰かが笑っていた。
けれど、その言葉は私には意味をなさなかった。
ニョンはすぐにテレビのほうを向いた。ぱたりとしっぽが止まり、目を瞬かせながら、画面をじっと見つめている。
ニェンも一応目を向けたが、視線の半分はまだこちらに残っていた。
体をわずかにこちらへ傾けるその姿は、まるでいつでも割って入れるように身構えているようだった。
私はというと、ルーサーの膝の上で手を動かしていた。
指を絡めたり、爪の先をそっとこすったり、意味のない動きを繰り返す。
テレビの内容が、わかりそうでわからない。音が脳の中でうまく言葉にならない。
そんな私の様子に気づいたのか、ルーサーがぽつりと声を落とした。
「……つまらなさそうだね」
私は、動きを止めてルーサーの方を見た。
ルーサーの目はまっすぐにこちらを向いていた。
何を考えているのか、分からない。けれど、確かに“私”を見ていた。
「……話でもしようか」
その声に頷く前に、ルーサーは続けるように問いかける。
「きみの名前は?」
「」
「そう。ちゃんと覚えているんだね。――じゃあ、家族は?」
私は、少し考え込んでから首をかしげた。
「……わかんない」
「帰りたいと思うかい?」
わからないものを考えるのは難しかった。
でも、それよりも先に浮かんできた言葉がひとつだけあった。
「ここが、いえ」
ルーサーは少しだけ目を細めて、そして手を伸ばした。
キャットマンたちによくしている、慣れた手つきで、私の髪を撫でる。
優しいというよりは、整えるような動きだった。
指先が、耳の後ろをそっとなぞった。