第5章 おいしゃさんごっこ
静かな部屋。
開いたままの棺の中で、私はいつもの位置に体を沈めていた。
隣には、ランダル。
まだ棺の扉は閉じられていない。
ひんやりとした空気が、布団の隙間から忍び込んでくる。
「ねぇ……」
私が小さく声をかけると、ランダルもそっと目を向けた。
「……お腹、痛くない?」
ランダルは一瞬だけまばたきして、それからふっと笑った。
「ふさがってるよ、もう。ほら、ぜんぜん平気~」
声の調子は軽い。
けれど、どこかその裏に、嘘ではないけど“何か”を隠しているような響きがあった。
私は答えないまま、そっと顔を寄せた。
心配だった。ただそれだけだった。
無意味かもしれないけど、気になってしまった。
小さく、ひと粒。
目の端から涙がこぼれ、頬をつたって落ちていく。
それを、ランダルが指先でそっとすくい取った。
「……ん?、泣いてるの?」
不思議そうに首を傾げながら、そのまま指についた雫をぺろりとなめる。
「……あ、おいしい」
その声は無邪気な感想のようで、どこかほっとしたようでもあった。
私は何も言わず、そっと彼の胸元に頭を預けた。
棺の中にはまだ、夜の静けさが残っていた。