第5章 おいしゃさんごっこ
「……もう寝ようね」
ランダルが小さな声でそう言いながら、棺の内側に手を伸ばす。
軋むような音とともに、蓋がゆっくりと閉じていく。
かたん――
最後の隙間が塞がれ、棺の中はほとんど暗闇になった。
光はわずかに、隙間のどこかから差し込む程度。
けれど、そのわずかな明るさでも、私はランダルの顔の輪郭をかすかに感じ取れた。
狭い。ほとんど身動きは取れない。
けれどそれが、いまは不思議と安心につながっていた。
「……」
私はそっと、ランダルに体を寄せた。
縋るように、滑り込むように。
暗闇のなかで、彼の熱と息づかいだけを頼りに。
ランダルは何も言わなかった。
けれどすぐに、私の背に腕が回される。
くいっと引き寄せられ、私は彼の胸の奥深くに収まった。
それはまるで、満ち足りた獣が抱きかかえるような動きだった。
棺の中の静けさの中で、ランダルの呼吸がわずかに変わっていく。
体温も、湿度も、少しずつ異質なものに変わっていく。
私は気づいていた。
今夜のランダルは、大きな傷を負っていたことを。
だからきっと、彼は――ここで、溶けるのだ。
棺の中で、まるでさなぎのように。
静かに、じわりと自分のかたちをほどきながら、また明日へと再構成されていく。
私は彼の胸に耳を当てたまま、目を閉じる。
ぬるく、ゆっくりとしたその脈だけが、確かに“生きている”ことを知らせてくれていた。