第5章 おいしゃさんごっこ
湯上がりの肌を、洗いたてのパジャマがやさしく撫でる。
私は静かに、いつものリビングの椅子に腰を下ろしていた。
目の前には、あたたかいホットミルク。
ほんのり甘い香りと湯気が、静かに鼻先をくすぐってくる。
両手でカップを持ち、ふー、ふーと息を吹きかけながら、私は少しずつそれを飲んでいた。
ランダル、セバスチャン、ルーサーがテーブルを囲んでいた。
誰も話していないのに、どこか安心できる空気がそこにあった。
ふと、隣にいたランダルが私をちらりと見て、口をゆるませた。
「ふーふーしてる~。……って、ねこちゃんみたいだなぁ~」
くすっと笑いながらカップを傾け、一気にひと口。
その瞬間、ランダルの口のまわりに白いミルクがふわっとついた。
「見て見て、ひげ~」
ミルクをつけたままセバスチャンの方へ顔を向ける。
セバスチャンは一瞬だけ目をやったが、何も言わず、無言で目を逸らした。
最初から相手にする気などなかったかのように。
ランダルは気にする様子もなく、唇をぺろりと舐め、満足そうにミルクをなめとっていた。
私はまだ、飲みきれないミルクを抱えたまま、ふー、ふーと息を吹きかけていた。
ちびちびとすするその感覚だけが、確かに現実のものだった。
少し離れたソファには、ニョンとニェンが並んで座っていた。
どちらも黙ったまま、のびをしたり、毛づくろいでもするような気配で。
特別な会話も音もない、けれど、確かに“夜”がある空間。
眠る前、みんなが自然と同じ場所に集まる――そんな静かな“家”の風景だった。