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【♀夢主】あたらしいかぞく【ランフレン】

第5章 おいしゃさんごっこ


湯に沈みながら、私は目を閉じた。
静かな水音だけが、皮膚をなぞるように響いていた。



ぐちゃぐちゃと音を立ててかき回した、ランダルの腹の中。
ぬるりとした感触、鼻先に近づいた声、息の熱。
あの笑顔――あの声――



「もっと見つけて、。まだあるよ、奥のほう……」



胸の奥がひゅっと縮む。
それでも、もう手は震えていなかった。
血が流れて、ぬるい湯の熱が私の指先をほぐしていく。



……気づけば、私は生きている。
いま、こうして湯に浸かっていて、誰にも何もされていない。
乱暴に見えたけど、ちゃんと風呂にも連れてきてくれた。
タオルだって、誰かが用意してくれる。



――それが、いつものこと。



私はぼんやりと思い出そうとする。
もっと前の、ここじゃないどこかの景色を。
けれど、白い。
曇ったガラスみたいに、視界の奥がかすんでいる。



家族……?
名前……?
私、誰と暮らしてたんだっけ……。



頭のどこかがぽつんと空洞になっていて、そこに手を伸ばそうとするたび、
今の生活のほうが、手に触れてしまう。



あの棺。あの部屋。あの声。
ランダル。セバスチャン。ニョン。ニェン。ルーサー。



……こっちのほうが、ずっと近い。
手に馴染んでいる。
昨日も、今日も、たぶん明日も――



ふと、頭の奥で声がこだまする。



――そういえば、私って……いつからここにいるんだっけ?



誰に聞いても、たぶん答えは返ってこない。
私の中にも、もうない。
だけど、もうそれでいいような気がした。



私は、湯の中で、そっと目を閉じた。
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