第5章 おいしゃさんごっこ
私は無言のまま、襟元に手をかける。
湿り気を帯びた布が肌に張りついて、動かすたびにぺたり、と鈍い音を立てた。
ゆっくりと服を脱いでいく。
指先に残るぬめりは、血と、それ以外の何かだった。
それでも、ただの作業のように動かすしかなかった。
全てを脱ぎ終えたあと、私は浴槽の縁に膝をつく。
湯の表面に手を浸し、ゆっくりすくって、肩にかける。
あたたかさが、肌にじわりと染み込んだ。
もう一度、そしてもう一度、静かに湯をすくっては流す。
赤黒く染まった脚や腕が、少しずつその色を失っていく。
やがて、私は湯の中にゆっくりと身体を沈めた。
肩まで沈んだ瞬間、ほうっと息が漏れる。
お湯は思っていたより熱かった。
けれど、その熱が皮膚の奥まで入り込んで、冷えきっていた指先がふるりと動いた。
じんわりと、体の内側に何かが巡りはじめる。
さっきまで氷のようだった腕があたたかさを取り戻し、胸元にあった重みが少しだけほどけていく。
ずっと途切れていた鼓動が、静かに、深く打ちはじめたようだった。
私は浴槽の縁に額を預け、目を閉じた。
しばらくの間、誰もいない水音だけが、耳の中で静かに響いていた。