第5章 おいしゃさんごっこ
時間の流れが、わからなくなっていた。
ランダルの指先が、また私の手に添えられる。
肉とも闇ともつかない感触をぐずぐずと引っかくように、ぐちゃぐちゃと掻き回す。
指が動くたびに、ぬちゃ、ずる、ぐちゅ、と音が鳴る。
嫌でも耳にまとわりついて、脳をじわじわと溶かしていく。
「ねぇ、ねぇ、……楽しいよね?すっごく……ね、これ、気持ちよくない?」
ランダルの声が近い。熱い。
鼻息が肩にかかる。
頬を赤らめ、目の奥がとろんと濡れている。
「ボクね、前からこういうのやってみたかったんだ~。
中ってほんとは見ちゃいけない場所でしょ?でも……だからこそ、見たいの。
触りたいの。ぐちゃぐちゃにしたいの。
ねぇ、。それ、ボクの“中”だよ?今、ボクの“全部”に触れてるんだよ?
ぜんぶ、見せてあげてるの。だけに。特別に。……特別に、だから……もっと、ね、もっと――!」
その言葉は、切れ目のない縄のように、頭の中へ巻き付いてくる。
どこかで気づいていた。ランダルは、もう私を見ていない。
目は見ていても、その奥は別の何かに没頭していた。
私の顔は、真っ青だった。
自分でわかるほど、血の気が引いている。
けれど、体は止まらない。
腕の動きは遅く、鈍く、でも確実に――ぐちゅ、ぬちゅ、と内側をかき回していた。
夢主服の前掛けは、さっきよりも赤黒く染まっていた。
血と粘液と、よくわからないものが重なって、じっとりと重くなっている。
それでも、ランダルは笑っていた。
いや、笑いながら、何かを“乗せて”きていた。
「ってさ、やさしいね。ちゃんとやってくれるもん。
ボクが見てって言ったら見てくれるし、触ってって言ったら触ってくれるし……すごく、いいこ。
ボクね、そういうの、大好き。だって、も、やりたくてやってるんでしょ?違う?」
違う。
違うはずなのに、ランダルの声に何度も包まれているうちに、わからなくなってくる。
たしかに私は、いま――やっている。
手を動かしている。言われなくても、動いてしまっている。
もしかして、本当に私……これが、好きなの?
いやだ。
気持ち悪い。
こわい。
でも、その感情だけが、声にならなかった。