第5章 おいしゃさんごっこ
喉がからからに乾いて、言葉が出なかった。
口を開こうとしたのに、声帯が動かない。
代わりに、かすかに揺れる息だけが漏れた。
それでも――ほんの一瞬だけ、舌が動き、喉が震えた。
「……はい」
声になっていたかどうかは、わからない。
けれど、確かに自分の口から出た音だった。
「……ふふ、そっかぁ……」
ランダルが細く目を細め、ねっとりと湿った吐息混じりの声でつぶやいた。
唇の端をゆっくりと持ち上げるその顔には、理性の影すらなかった。
狂ったように嬉しそうで、気持ち悪いほど満ち足りていて――
その声も目も、私の全身を舐めまわすように絡みついてくる。
完全に、スイッチが入っていた。
けれど、もうランダルの視線は私の顔を見ていなかった。
それは、私の手元――お腹の中へと落ちていく。
「ねぇ、。もっとそっち、ほら……なにかあるでしょ?」
手を重ねて、私の指先をさらに奥へと押し進める。
闇の中の臓器“のようなもの”が、柔らかくうねりながら形を変える。
ずぶっ、ぬちゃっ、と湿った音がひびく。
ぐにゅ、と押し潰す感触が、掌に広がっていく。
私の心臓が、ばんばんと耳の奥で跳ねていた。
音が嫌だった。感触が、嫌だった。
「わたし」の身体が、そう訴えているのに、手は止まらなかった。