第5章 おいしゃさんごっこ
「さてさて~、じゃあ……患者さんは、だれにしようかな?」
ランダルがくるりと回りながら、白衣の裾をひらひらと揺らす。
思案顔をして、わざとらしく顎に指を添えるその仕草も、どこか芝居がかっていた。
「んー……でいいや。ね、、きみが患者さんね」
特に迷いもなく言いながら、白い手袋の指でこちらをひょいと指す。
その目には悪意も躊躇もなかった。ただ、当たり前のように、私が“選ばれた”。
「……ぜんぶ、見せてね?」
その声はいつもどおりの調子だった。
けれど、明るい言葉の中に貼りつくような粘度があった。
内側も、頭の中も、見えないところまで。そう言われている気がして、背中がじわりと冷たくなる。
「……は?」
低く、鋭く割って入る声が響いた。
ランダルが振り返ると、壁際にもたれていたセバスチャンが目だけをこちらに向けていた。
視線の先には、銀色の手術台と、その周囲にずらりと並べられた道具の数々。
「そのへんのモン見て、それでも言ってんなら……頭おかしいぞ、おまえ」
セバスチャンの声は、珍しく明確な温度を帯びていた。
それは怒りというより、確信に満ちた“拒絶”だった。
「俺たちはただの人間なんだよ。そんなもんで切られたら……ふつうに死ぬ」
言葉の間、室内が一瞬だけ静まり返る。
並んだハサミや包丁の金属音が、聞こえた気がした。
ランダルはほんの一瞬だけ黙って、指先で白衣の裾をつまんだ。
それから、すぐにいつもの調子に戻ったように笑ってみせる。
「なーんだ、そっかぁ。……そうだよね~、にもしものことがあったら、つまんないし」
口元に笑みを浮かべながらも、その言葉の奥には、ほんの少しだけ湿った音が滲んでいた。