第5章 おいしゃさんごっこ
ついたての布をかき分けて出たとき、空気の温度がほんの少し変わったような気がした。
ナース服に着替えた私に、ランダルの視線が吸い寄せられる。
次の瞬間、パチンと両手を打ち鳴らし、ぱっと花が咲いたように笑った。
「うわぁ……かわいい~!ね、ね、、すっごく似合ってるよ!」
私が着せられたのは、古いドラマやアニメに出てきそうな、典型的な“看護婦さん”の衣装だった。
肩にはふくらんだパフスリーブ、胸元で切り替えのあるワンピース。
スカートはひざ上でひらりと広がり、裾には赤いラインがぐるりと一周入っている。
小さな赤十字のワッペンが縫い付けられたその服は、本物というより“誰かの理想”を詰め込んだような作り物。
コスプレといえばそれまでだけれど、見た目だけはきっちり可愛く整っていた。
ぱたぱたと駆け寄ってきたランダルは、すぐ目の前で立ち止まり、ほんの少しだけ首を傾けて私を見下ろす。
視線は服の細部ではなく、それを着た“私そのもの”に注がれていた。
まるで、お気に入りの人形に衣装を着せて、その出来映えを確かめているみたいだった。
「ね、ね、ほんとに似合ってるよ、!ほら、この感じ!ボクが想像してたまんまだよ~!」
満足げにうなずきながら、ランダルは私のまわりをくるくると回る。
スカートのひらき具合も、袖の形も、丈のバランスも、ぜんぶ“こうだったらいいな”でできていたらしい。
その途中、彼がふと立ち止まって、私の頭の上をじっと見つめた。
「あれ?帽子、ないじゃん。……忘れてたよ~」
そう言って思い出したように、白衣のポケットから小さく折りたたまれたナース帽を取り出す。
ぺらりと開いて整えると、ランダルは両手でそれをそっと持ち、私の頭にかぶせてくれた。
「はい、これで完成~。……やっぱこれがないと、しっくりこないもんね~」
指先が髪にふれる感触があった。
帽子を整えるその仕草には、どこか誇らしさと満足がにじんでいた。
ふと視線を感じて振り返ると、セバスチャンがこちらを見ていた。
何も言わない。ただ、目が少し細められたように見えたその瞬間、すぐに視線をそらす。
軽く鼻を鳴らし、壁にもたれ直したその横顔の耳が、わずかに赤くなっていた気がした。