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【♀夢主】あたらしいかぞく【ランフレン】

第5章 おいしゃさんごっこ


ついたての内側は思ったよりも狭く、しゃがめばすぐに膝が布に触れた。
天井の明かりも届かず、ランプの光がかすかに揺れている。
ここだけが、外と切り離されたように静かだった。



バスケットの中には、畳まれたナース服が丁寧に置かれていた。
真っ白な布に赤いラインが一本。胸元には、小さな十字のワッペンが縫い付けられている。
どこかレトロで、子供の頃に見た絵本の中から抜け出してきたようなかたち。



手に取った布からは、わずかに甘い香りがした。
誰かが香水を振ったのか、それとも新品の布地がそういう匂いなのか――わからない。
けれど、不思議と肌に触れた瞬間、ざわっとした感覚が背中を走った。
これは衣装。これは“遊び”。でも、着替えていくたび、服と一緒に何かまで変わってしまうような――そんな予感がした。



私は無言のまま、ゆっくりと腕を通していく。
ぴたりと肌に沿うその布が、まるで誰かの指先に包まれているように感じた。



ボタンを留め、襟を整える。
裾の短さに一瞬だけ戸惑いながら、それでも着替えを終えようと手を止めずにいると――



「セバスチャーン、ねぇねぇ、どう思う?このへんのライトもう少し明るくした方がいいかな?」



ついたての外から、ランダルのはしゃぐ声が聞こえた。
足音が、手術台のまわりを行ったり来たりしている。



「でも明るすぎるとさ、ムードなくなるよね~。
やっぱちょっとくらい怖いくらいが、びょういんって感じするもんね!」



続く声は、どこまでも楽しそうだった。
演技ではない。心から、この“遊び”に心を躍らせている声だった。
けれど、それが逆に怖かった。



セバスチャンの返事は聞こえない。
押し黙っているのか、それとも無視しているのか――どちらにせよ、その沈黙は重かった。
静かなその気配が、ついたて越しにこちらまで染み込んでくる。



私は立ち上がった。
布の端を整えながら、深く息を吐く。



もう、着替えは終わった。
あとは、この布一枚をめくって、また“外”に戻るだけだった。
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