第5章 おいしゃさんごっこ
くしゃ、と髪を撫でた指先の感触がやわらかくて、少し、くすぐったかった。
ランダルは目を細めて、子猫のように身を預けている。
少しでも指を止めると、頭を押しつけるようにして催促してくるのがわかった。
何も言わず撫で続けていると、彼の肩がすぅっと下がった。
安堵したような、緩んだ呼吸が白衣の内側から洩れている。
……けれど、それを見つめるセバスチャンの目だけは、ぴくりとも揺れなかった。
セバスチャンは私の方を見ていた。
いつもと同じ無表情。けれどその瞳には、どこか釘を打ち込まれるような無言の圧があった。
「甘やかしたら、どんどん調子に乗るぞ」――そんな風に、言われている気がした。
やがて、満足したのか、ランダルがぱっと頭を上げた。
「そーれじゃあ、患者さんに付き添うナースさんは……」
唐突にそう言って、ランダルは部屋の隅を指差す。
指の先には、布製のついたてが立てられていた。
その奥に、小さな木製の椅子と、服の入った白いバスケットが置かれている。
「女の子だからね~。おきがえは、あっちで」
そう言って、ランダルはまた一歩、軽い足取りでついたてへ向かった。
ほんの少し肩を揺らすような歩き方で、くるりとこちらを振り返る。
その動きにはどこか、見て、気づいて、と言いたげな自意識がにじんでいた。
「ちゃんと用意しておいたんだよ。かわいいやつ!ね、ね、似合うと思うんだ~!」
声の調子はいつも通りなのに、目の奥だけがわずかにぬるい。
甘い声に混じって、何かを確かめようとするような視線が、肌の上をゆっくり撫でていった。
ただの遊び――のはずなのに、そこに含まれている“理由のわからない重さ”に、ほんの一瞬だけ息が詰まる。
私は無言のまま、促されるようにしてついたての向こうへ歩いていく。
カーテンの布がひらりと揺れ、後ろの空間と私とをやわらかく仕切った。