第5章 おいしゃさんごっこ
ランダルに手を引かれるようにして、私とセバスチャンは屋敷の奥へと進んだ。
細く、狭く、いつもは立ち入らない階段を降りていくと、空気が少しずつ冷たくなる。
その背後では、さっきまで私たちにまとわりついていた人形たちが――まるで合図でもあったかのように、ぴたりと動きを止めていた。
追いかけてくることもなく、ただぽつぽつと廊下に座り込んだまま、こちらを見送っている。
その光景は、まるで見送りのつもりなのか、それとも境界を越えられないだけなのか、判断がつかなかった。
私たちを追わないまま、黙ってその場に留まる人形たちの気配を背中に感じながら、足を進めた。
階段を下るたびに、空気はひんやりと湿り気を帯びていく。
誰かの家の奥というよりも、もう外の世界と切り離された別の場所に踏み込んでいくような、そんな感覚だった。
地下室――というより、半分埋もれた倉庫のような空間。
そこにあったのは、無機質な銀色の大きな台。
表面には、何かを隠すように真新しい布がぴんと張られている。
白とも灰色ともつかないその布は、しわひとつなく、まるで何かを“準備されたままの状態”で待っているように見えた。
その周囲には、金属製のトレイに並べられたハサミ、鉗子、注射器……
そして、料理用の包丁や壊れたカッター、おままごとのスプーンまでが、混ざり合うように整然と置かれている。
「じゃーん」
振り返ったランダルは、白衣の裾をつまんでひらりと広げて見せた。
顔には子どものような笑みが浮かんでいる。
「どう?いい感じでしょ、ね、ね?」
彼はセバスチャンの方へふわっと駆け寄ると、上目遣いで覗き込むようにして身を寄せた。
白衣の肩口を引っ張って見せながら、期待のまなざしを向ける。
「がんばったからさ、なでてくれてもいいんだよ~?」
だが、セバスチャンは無言のまま腕を組んでいた。
押しつけられた頭にも目もくれず、ただ壁の一点を見つめている。
空気に、少しだけ沈黙が落ちた。
そしてランダルが、ちらりとこちらを見る。
「ん……じゃあ、~?」
そう言って、今度は私の隣にふわりと寄ってきた。
膝にそっと頭を預けてくる。私は少し戸惑いながらも、彼の髪に指を伸ばした。