第1章 プロローグ
ランダルは、嬉しそうにくすくすと笑った。
背後に立っていたセバスチャンは何も言わず、無表情のまま目を細めてこちらを見る。
だが、ランダルはセバスチャンの反応など一切気にしなかった。
「うん、拾おう。かわいそうだし、なんか喋りそうな顔してるし。ボクの新しいおともだち~」
私の手首が持ち上がった。軽々と。
まるで落ちていたおもちゃを拾うように、彼は迷いなく私を抱えた。
「ごはん、食べてないんだ……かるっ。ね、ちゃんと食べさせたげるからね~」
ぎゅっと抱きしめながら、くるくるとその場で回って、楽しそうに笑う。
「そんじゃ、名前つけなきゃだよね! ……うーん……アボカド・ミント・サンデー・フライングボックスちゃん!」
セバスチャンは無言のまま、少しだけ後ろへ下がった。
「えへへ……でも、ホントは名前あるのかな? あるなら言ってみて?」
ランダルが私の頬に指を伸ばした瞬間、声が漏れた。
「…………」
かすれた音が喉から滑り落ちた。
自分でも信じられないほど、弱くて不確かな声だったけれど――たしかに、それは私の名前だった。