第3章 ひとつぶのよる
静かだった。
ランダルの腕の中にいたは、
息を殺すようにしてじっとしていたけれど、
彼の呼吸が、さっきよりずっとゆっくりなのを感じていた。
なにかに満たされたような、けれどどこかまだ心細そうな気配が、
彼の背中から、ふわふわと漏れていた。
額を軽くすり寄せると、ランダルがぽそりと呟く。
「……ここにいてくれるだけで、いいんだよ」
その言葉が、ひどく切なく聞こえたのは、
それが本当に“望みの全部”なのだと、伝わってきたからだった。
と、そのとき——
「ランダル」
低くて、静かな声が響いた。
扉の向こうから、ルーサーがリビングに入ってくる。
彼は足音を立てずに歩きながら、ちらりとランダルとの姿を目にして、目を細めた。
「大丈夫か」
ランダルはの髪に頬を寄せたまま、くすりと笑った。
「ああ。もう、すっかり落ちついたよ」
その声には、確かにさっきまでのざらついた怒りはなかった。
「……ふむ。ならいいのだが」
ルーサーは一応の納得を示しながら、リビングの周囲を見渡す。
「……キャットマンたちはどこへ行った?」
ランダルは一瞬考える素振りもなく、すぐに答える。
「さあ?見てない。いなくなってたんだ」
そして、の方に顔を向ける。
「ねぇ、。キミ、知ってる?」
は少しだけ目を伏せて考えたあと、
ゆっくりと手を上げて、リビングの出入り口を指さした。
その方向へ、彼らが出ていった。
言葉はなくても、それで十分だった。
ランダルはちらとルーサーを見て、小さく笑った。
「だってさ、兄さん」