第3章 ひとつぶのよる
突然こちらへ視線が移り、
ゆっくりと、ランダルが近づいてくる。
音はないのに、なぜか床板が軋むような気がして、はぴくりと肩を揺らした。
しゃがみこんだランダルが、無言で手を伸ばしてくる。
頬に押し当てられた指先が、じわりと力を込めて、ぷに、と柔らかさを押しつけてくる。
「……ふふっ、って、やわらかいね」
くにくにと頬をいじると、今度は髪に手が入った。
ぐしゃぐしゃにかき混ぜながら、毛並みを崩すような乱雑さで触れ回る。
「かわいいなぁ……撫でたくなっちゃうよ、ね」
肩と肩が触れ合う距離。
ランダルの額が、の首元へすり寄ってくる。
「ちゃんと……最後まで、ボクと一緒にいるよね?」
耳元に落ちる声は甘いのに、どこか底のない湿り気があった。
は何も言えず、ただ身をすくめて、されるがままになっていた。
「全部、見せてね。隠さないで……」
ランダルの腕が背中に回り、
ぎゅっと小さく引き寄せてくる。
その動作は、まるでぬいぐるみを抱きしめる子供のようだった。
「いいこだねぇ……
黙って、ちゃんとここにいて……えらいね」
くすぐるような声で囁きながら、
ランダルの指は髪や頬、耳や首筋を、何度もなぞっていく。
自分のものであることを確かめるように。
壊れていないことを何度も触れて確認するように。
「壊れないでね……だけは、ずっと、ここにいて」
最後のその言葉だけが、ほんの少し震えていた。
は何も言わず、何もできず、
ただその体温と重さと、湿った執着のような声に包まれていた。