第2章 まどろみのなかで
「ランダル」
低く落ち着いた声が、扉越しに響いた。
ノックの音に続いて聞こえたその呼びかけに、ランダルは動きを止める。
「……ん~……もう。いま、すっごくいいとこだったのに」
小さく不満をもらしながら、ゆっくりと私の肩から手を離す。
そのまま扉の方へと振り向き、ルーサーの声に返事をする代わりに、ふっと息をついた。
「あとで少し、時間を取れ」
短く、それだけ言い残して、ルーサーの足音が遠ざかっていく。
部屋の空気が、わずかに緩んだ。
ランダルはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて諦めたように小さく首を傾げる。
「ねぇ、セバスチャン。のこと、ちゃんと見ててあげてね?」
そう言ってこちらを振り返り、にこりと笑う。
「じゃあ、あとでね~。ぼくもすぐ戻るから」
言葉通りの明るさだったが、どこか名残惜しそうだった。
ランダルは扉の向こうへ姿を消し、足音もまもなく聞こえなくなる。
部屋には、私とセバスチャンのふたりきりが残された。
気まずいわけでも、気楽でもない沈黙。
それでも、セバスチャンは特に何も言わず、立ち上がって部屋を出る。
私も後に続く。
ふたりで、音もなく廊下を歩く。
向かうのは、いつもの場所。
ランダルのにぎやかで、落ち着かない、でも少しだけあたたかい部屋。
その棺の中で、今日も眠るために——。