第2章 まどろみのなかで
部屋に戻ったとき、セバスチャンはもう、棺の中に入っていた。
蓋は半分だけ閉じられ、中からはほんのわずかな寝息が聞こえるだけだった。
私は部屋の床に落ちていたものに目を留める。
毛糸の髪の、女の子の人形。
どこか形が崩れていて、糸がほつれ、片目はボタンが取れかけていた。
かわいいとは思わなかった。
触れたとき、かすかな不快感すらあった。
でも、なぜかそのまま拾って、抱きかかえていた。
理由はなかった。ただ、手が空いているのが落ち着かなかっただけかもしれない。
ランダルの棺に入り、膝を折って座り込む。
膝に毛布をかけ、人形を抱いたまま、静かに身を落ち着けた。
狭い棺の中は、いつもの閉塞感と、ぬるい空気に包まれている。
棺の蓋は開いたままだった。
壁のランプはまだついていて、部屋は薄暗いまま。
音もなく、ただ静かだった。
セバスチャンの棺からは、ときおり寝返りの気配が伝わってくる。
それが、唯一の動きだった。
ランダルはまだ戻ってこない。
けれど、私は知っている。
もう少しすれば、ひとりぶんの足音が近づいて、ランダルがいつものように、優しい声で名前を呼んで、もぞもぞと隣に潜り込んでくること。
そして、いつものように、少しだけおしゃべりをして、
肩を寄せ合って眠る夜が始まること。
それは、何も感じないまま、ただ繰り返してきた“日課”のようなもの。
私は棺の内側にもたれかかりながら、目を閉じる。
人形の毛糸が肌に触れる感覚だけが、妙にくすぐったかった。