第12章 ■短編『よるのまんなか』
袋の中には、まだいくつかスナックが残っていた。
どちらが開けたのかは、もう思い出せない。
は、そっと指を伸ばして、静かにひとつをつまんだ。
くしゅりと音がして、となりのセバスチャンが動いた。
ちょうど同じタイミングで、彼も手をのばしていたらしい。
ふたりの指先は、ほんの一瞬だけ触れた。
何も言わず、引っ込めることもしないまま、それぞれがそれぞれの一片をつまむ。
袋の縁が、ふたりの間でぺこんと小さくへこんだ。
画面では、唐突に動物の映像が流れはじめていた。
猫のようで、猫でないような何かが、電柱のまわりをぐるぐる回っている。
BGMもなく、字幕もない。
意味はまったくわからなかったけれど、それでも、視線はそこにとどまり続けていた。
は、もぐもぐと咀嚼しながら、何気なく横目でセバスチャンを見る。
彼は表情を変えず、ただ黙って缶を傾けているだけだった。
その目には疲れも怒りも映っていなかったけれど、
それでもどこか、距離を測っているように見えた。
でも、それは悪いことではない気がした。
たとえば、ふたりのあいだにある距離が、今はこれで正しいんだと、そんなふうに。
テレビの音が、少しだけ大きくなったように思えた。
リモコンには誰も触れていなかったのに。