第12章 ■短編『よるのまんなか』
リビングには、テレビの光だけがほのかに灯っていた。
ぼんやりとした明滅が、壁と床に色を投げては、また呑み込まれていく。カーテンの隙間から覗く夜の闇も、家具の影も、すべてが薄く溶けている。
ぼんやりとした明滅が、壁と床に色を投げては、また呑み込まれていく。
ソファには、ふたり。
は、ジュースの缶を両手で抱え込むように持ち、
その隣では、セバスチャンが片手で缶を持ったまま、無言でテレビを眺めていた。
ふたりの間には、袋の口が開いたままのスナック菓子がひとつ。
こぶし一つ、あるかないかの距離しかない。
テレビから流れてくるのは、
なぜかエコーがかかった長い笑い声や、切れかけた蛍光灯の映像ばかり。
CMなのか番組なのかもわからないまま、画面は途切れずに続いていた。
は缶を傾けて、一口だけ甘い炭酸を喉に流し込む。
静かな空気の中、ぷつり、と小さな泡が弾けた音だけが聞こえた。
ふと、視線をテレビへ向けたまま、はつぶやく。
「……これ、なに?」
画面には、ぼやけた映像と、途切れ途切れの笑い声。
何を見せたいのか、何を伝えたいのか、まったくわからない。
ぽつりと漏れた声に、セバスチャンが横目だけでこちらを見る。
そして、あくまで淡々と、短く返した。
「さあ。」
それだけ。
けれど、はそれでよかった。
わからなくても、気にしなくても、ここにいていいと、なぜか思えた。