第11章 おわり
ランダルの呼吸が、すこしずつ深くなる。
膝のうえで髪がゆれて、
柔らかな体温がじんわりと伝わってくる。
私は、声に出すかわりに、
口の中で小さな子守唄をなぞった。
意味のないような音のつらなり。
でも、ランダルはそれが好きだと言っていた。
この部屋の中には、ほかに音はなかった。
ドアは閉まっていて、窓もない。
外の気配も、誰の気配も──今は、感じない。
けれど、すこし離れた壁ぎわに、セバスチャンがいた。
姿勢はくずさず、棺に寄りかかるようにして、
静かに、こっちを見ていた。
私はそれを見ても、なんとなく「安心してくれてるのかな」と思った。
そう思ったとたんに、胸の奥がふわっとあたたかくなる。
本当のところ、セバスチャンの表情には何も映っていなかった。
だけど──私には、穏やかに見えた。
ほんの少し前に、誰かがここを通ったような気配もあった。
でもそれは、きっと気のせいだったのだろう。
もしも、誰かがそこにいたとしても、
悪いことをする人ではない。
──きっと。
私は再び視線を落として、ランダルの頬に手をそっと添えた。
「……おやすみ、ランダル」
その声に、眠っているはずのまつげが、
すこしだけ揺れたような気がした。