第11章 おわり
とランダルが部屋を出ると、
セバスチャンもゆっくりと椅子を引いて、あとからついてきた。
廊下の壁には、見慣れた絵が並んでいる。
かわいい色づかいで、子どもが描いたような人物と花と、空と。
「ほら、これ~。ボクがちっちゃいころ描いたんだって」
ランダルが絵を指さして笑う。
丸い顔に笑った口。空は水色で、足元にはピンクの犬のようなものがいた。
は微笑んで頷いたが、
セバスチャンはその絵を一瞥しただけで、何も言わなかった。
――絵の下地には、茶色い手の跡がいくつも重なっていた。
それが何かを拭き取った跡のように見えて、
“絵”というより、なにかを隠すために描かれたようにも見えた。
ランダルは軽やかに歩いていく。
「もうちょっと先~。ほら、急いで~」
その声は本当に楽しそうで、まっすぐで。
けれど、セバスチャンの足取りだけが、どこか重かった。
窓の外には、中庭が広がっていた。
の目に映る景色は、白く光る草と、澄んだ空気だった。
でも、セバスチャンの目には――
地面にへばりついた何かが、微かに蠢いていた。
しみのように広がる灰色の草は、風もないのにゆらゆらと動き、
どこからか小さく、ぬるりと濡れる音がしていた。
それでも、は笑って「きれいだね」と言った。
「……あぁ」
セバスチャンは答えた。
でも、それはただの音でしかなかった。
ランダルの部屋に着いたとき、
は「落ち着く匂いがする」と言った。
甘いような、木のような、何かの香り。
セバスチャンの鼻先に届いたのは、
甘ったるさにまぎれた、血なまぐさい鉄のにおいと、乾いた埃の香りだった。