第11章 おわり
食堂には、やさしいにおいが漂っていた。
テーブルの上には、ランダルが並べてくれた朝ごはん。
いつもと同じ、あたたかいスープと、やわらかそうなパン。
それから、白くてとろりとした何かのかかった焼きもの。
私は席につくと、スープの器を両手で包んだ。
ほんのり甘くて、でも奥にすこしだけ酸味があって、
それが目を覚ましてくれる感じがして好きだった。
ランダルが向かいの席に座って、パンを小さくちぎっている。
「、ちゃんと食べるんだよ?残しちゃだめだよ~。
ほら、このへん、ぷるぷるしてて美味しいとこなんだから」
笑いながら、焼きものの端をスプーンですくって見せてくれる。
私はそれを見て、うなずいた。
スープの表面には、虹のような光が差していた。
窓からの光が反射しているだけかもしれないけど、
すこしだけ、膜のようなものが揺れているようにも見えた。
でも、私は気にせず口に運んだ。
舌に広がる味は、いつもと同じで、
ちゃんと“おいしかった”。
「……ん、おいしい」
素直にそう口にすると、ランダルがにっこりと笑った。
「でしょ?ボクのおすすめだもん。、やっぱ味の好み合うね~」
彼の声はとても楽しそうだった。
反対側の端の席では、セバスチャンが静かに椅子に座っていた。
器に手はつけていない。
ただ、スプーンを持ったまま、ひとつも動かずに視線だけを落としていた。
パンの表面には、うっすらと青い斑点が浮かんでいた。
けれど私はそれが“焼き色の模様”だと思って、
なにも疑わずに口へ運んだ。